大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所函館支部 昭和34年(ラ)7号 決定

抗告人 三宅秀治

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の理由は別紙抗告申立書記載のとおりである。

よつて按ずるに、競売法第三〇条によつて準用される民事訴訟法第六六四条には、競買人が保証として競買価額の十分の一に当る金額を現金又は有価証券をもつて直ちに執行吏に預けるときでなければその競買を許さない旨規定されており、同条には単に有価証券とあるけれども、右は民事訴訟法第一一二条の規定と同様相当な有価証券に限る趣旨であることもとより当然であり、そしてその相当性の認定は、競売の実施が執行吏の主宰するところである以上、執行吏に一任されているものと解するのが相当である。そして、小切手は偽造又は変造が絶無であるとはいい難いこと勿論であるのみならず、そのような疑がなくとも確実に支払われるものであるかどうかを審査するには若干の考慮を要するのであり、一方執行吏が競売を実施するにあたつては、競買人の提出した保証が不相当なときは競買を許さず、即刻新な競買の申出を催告して手続を継続すべきであるから、保証が相当であるかどうかは直ちに審査し決定する必要がある。また小切手は所持人において原則として十日の呈示期間内に支払のため呈示することを要し、適法な呈示その他の保全手続に欠缺があれば遡求権を失い利得償還請求権を残すのみとなることは、小切手法第二九条、第三九条、第七二条等の規定に徴し明かであるから、執行吏は保証として小切手を受領したときは右期間内に呈示して支払を受け得られないときは所定の保全手続を履践しなければならない。従つて執行吏が右の如き繁を厭わず競買の保証として小切手の預託を認めるか、或いは小切手の預託を認めないこととするかは、たとえ銀行振出名義の小切手であつても原則として当該執行吏の自由なる裁量に委せられるものと解すべきであつて、一部の競買人にのみ小切手の預託を認め他の競買人にはこれを認めない場合等特段の事情の存しない限り、小切手の預託を拒絶した本件執行吏の措置を不当と認めることはできない。

しからば、函館地方裁判所執行吏が抗告人に対して競買の保証として小切手を預託することを認めなかつたことを理由として他人に対する競落の許可を不当とする本件抗告人の主張は到底採用し難く本件抗告は失当として棄却すべきものとし、抗告費用の負担について民事訴訟法第九五条第八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 羽生田利朝 裁判官 渡辺一雄 裁判官 今村三郎)

抗告の理由

一、抗告人は、別記不動産を競落すべく、競買人として保証として執行吏に預くる目的を以て、北洋相互銀行苗穂支店長振出しの額面金参拾万円也の小切手支払場所北洋相互銀行函館支店持参払を所持し、競売期日である昭和三十四年五月六日函館に出向き、競売場所に競売開始時前に出頭し、御庁八巻執行吏に対し抗告人は、競買保証として、前記金参拾万円也の小切手を預託のため提供した。しかるに八巻執行吏は、保証としては現金以外の有価証券は受理が出来ない旨でこれを拒否された結果抗告人は折角札幌より函館に出向いたが競買人となることが出来ず帰札の止むなき結果となつた。

二、けれども民事訴訟法第六六四条の規定には、現金又は有価証券を以て、直ちに執行吏に預くとあり、且つ当地札幌地方裁判所執行吏に於ては、前記の如き小切手を以て、保証として、預託を受理せられている。抗告人は不動産の売買を業として居り、札幌地方裁判所に於ける競売事件の競買人として小切手を預託して競買人として競落した事実に徴し御庁執行吏の小切手を保証として受理しなかつたことは法意に反するものと認められる。以上の理由を以て申立人は茲に即時抗告をなし本件不動産につき再競売をなす旨の御決定あらんことを求める次第であります。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例